気になるアイツ





とある日、青学の越前リョーマは駅で待ち合わせをしていた。

待ち合わせの時間から15分経つ。

『・・・向こうから誘っておいて遅刻?ありえないんだけど』

少しづつ不機嫌さが増す。

不本意ながら、今日のお出かけは別に自分が望んだわけでもない。

相手が毎日のように誘ってくるので仕方なくといった具合だ。

なのに、未だに来る気配はない。

30分。

30分待つなんて普段ありえないことで、携帯をにらめっこしながら、

事前に教えてくれた連絡先にメールをする。

『帰る』

相手が確認しているかどうかはもうどうでもいい。

来ないのがいけないんだ。

そう思いつつ、その場所から遠のく。

と、その直後、背後から越前を呼ぶ声が聞こえてきた。

越前は振り向くとそこには意外な人物が立っていた。

「柳さん・・・?」

立海の参謀と呼ばれ、乾の親友の柳蓮二だった。

制服ではなくラフな格好ではあったが何故か品が漂う。

「今日は赤也とデートではなかったのか?」

デートではないと思いつつ、反論したところで勝てそうもないので黙っていた。

柳は溜息を吐くと仕方ないな。とつぶやき、どこかへ電話する。

しばらく、発信音が鳴り響いたが、あわてた様子で相手は出る。

「赤也か、今どこにいる?」

口調は丁寧だが、少し怒気が混じる。

『柳先輩、どうしたんですか。俺いますごく急いでるんで・・・』

確かに急いでいるようで、ところどころガタガタと変な音が鳴る。

「大方寝坊でもしたのだろう。早く来てやれ」

柳は後輩の切原とやり取りをしたあと、電話を切った。

「赤也がすまないことをした。困ったものだ」

「別に・・・」

本人ならともかく、柳に謝られても、と正直思う。

「赤也ならこれから来るそうだが・・・来るまで俺に付き合ってくれるか、越前?」

柳にそういわれ、断る理由もないし、一人で待つよりはいくらかマシかなと思いながら

会話がなさそうだな。と正直思った。

柳は越前をつれて、駅を後にした。

駅前に出て、しばらく歩くと、店の前にたどり着く。

「ここなら、一時間くらいは時間が潰せるだろう」

そう案内されたのはネコカフェだった。

店内はそれほど大きくはない。近くに有名なネコカフェがあるので、

あまりこちらには客が流れないらしい。

穴場といえば、穴場ではある。

柳は越前を伴い、店の中に入る。

店の半分に猫が放し飼いになっていて、何匹かの猫が遊んでいる。

2人は案内された席に向かい合って座り、飲み物を注文した。

しばらくは会話もなく、飲み物を静かに飲んでいたが柳が声をかける。

「俺のことは気にしなくていいから、猫と遊んでくるといい」

そういわれ、越前の顔に笑みがこぼれた。

越前は柳にお礼をいうと、猫のいるほうに向かった。

楽しそうに猫と戯れる越前をみながら、柳は自然と笑みをこぼした。


小一時間後、柳に赤也からメールが入った。

「越前」

柳は猫と戯れる越前に声をかけた。

越前は猫にバイバイと手を振った。

「赤也がもうすぐ駅に着くそうだ」

柳はそういって、会計に向かう。

「柳さん、これ」

越前は自分の分を支払おうとしたが、柳に制された。

「いや、ここは俺が支払おう。越前を待たせた詫びだ」

越前はお礼をいい、柳とともに店を出た。

店を出ると、越前は店を見ながら、今度また来ようと思った。

もちろん、カルピンの方が可愛いが、他の猫たちも可愛い。

先ほど戯れた猫を思い出すと自然と笑みをこぼしてしまう。

「越前、赤也は気性は激しいがいい奴だ。付き合う関係なしに仲良くしてやってくれ」

柳はそう静かにいうと歩き始めた。

越前は複雑な思いを抱きながら、青学の先輩たちを思い出した。


駅まで戻ってくると向こうから切原が走ってきた。

ゼィゼィと息を切らし、越前と柳に謝った。

「すんません、柳先輩・・・助かりました」

切原はペコペコと頭を下げていた。

その光景に越前は普段見ていた切原のイメージが違いすぎて可笑しくなった。

「この借りは今度返してもらうとして、俺はそろそろ行くとしよう。
これから弦一郎と待ち合わせなのでな」

柳は2人を残してその場を立ち去った。

切原は越前の前に向き直り、

「悪いっス。自分から誘っておいて寝坊するなんて・・・」

「・・・別にいいけど・・・俺は猫と一緒で楽しかったから」

そのつぶやきに切原はえ?とキョトンとしたが、気を取り直して越前の手を取る。

「なら、行こうぜ。時間がもったいないしな・・・」

切原と越前はそのまま駅を後にした。



とはいったものの、デートのプランなんてまったく考えてない。

柳先輩から越前の好きなものなんかのデータは聞いてはいたが、

頭に入っているはずもなく、悩んだ挙句、眠れずに寝坊したという有様。

かっこ悪りったらありゃしない。

ま、楽しけりゃいいか。切原は頭を切り替えた。

まず、切原がよく行くゲーセンに向かい、二人でゲームをする。

意外と越前は反射神経がいいらしく、

初めてやったガンで打ちまくるゲームは何故か切原よりも得点がよかったりする。

「何で初めてなのに、そんなに点稼げるんだっつの!!」

「ムキになるからじゃない」

そんな会話が勝負をするごとに聞こえてくる。

案の定、切原はムキになっている。

そんな切原を越前は何だか楽しかった。

その後はスポーツ用品に入ったり、本屋にいったり、途中でご飯食べたりと、

初めてにしては楽しかった。

気がつくとあたりはすっかりと日が落ちていた。

「越前、今日は遅刻してすまなかった。今度は・・・」

店の路地横で切原は次の言葉を恥ずかしいのか言いにくそうにしていた。

越前は切原の顔をじっと見て、言葉を待っていた。

「・・・また・・・俺と・・・」

スッと切原の影が目の前を遮ったかと思うと、唇に柔らかい感触が伝う。

キスされている。

そう越前は直感で感じた。

でも、嫌な気はしなかった。

触れただけのそれは切原の想いが詰まっていたように、温かかった。

ふと、脳裏に柳さんの言葉が浮かぶ。


『赤也は気性は激しいがいい奴だ』


2人の唇が離れると、切原は照れながら言葉を続ける。

「・・・越前、マジで俺、お前が好きなんだ・・・だから、俺と付き合ってくれ」

キスしてからいうのも変だよね。

と思いながら、切原のことが気になっているのも事実だった。

でも・・・返事してあげない。

遅刻したし。

越前は切原に一つのメモを渡す。

「これ、俺のアドレスと番号だけど・・・」

「え、じゃぁ・・・」

切原はそのメモを受け取りながら、笑顔を向けた。

「今日、面白かったし・・・気が向いたらね」

越前はそう付け加え、くすっと笑った。

切原はそれでもいい。と喜び、越前に抱きついた。

『今度はネコカフェに連れて行ってもらおう』

越前は密かにそう思っていた。







その日の夜。

切原の携帯に柳からメールが届く。

そこには猫カフェに行ったときの猫と戯れる越前の写真が添付されていた。

ますます柳に頭があがらない切原であった。






おわり